隊員達が起床して間もなく、教授が全員をコックピットに集めた。
「みんな…これを見てみてくれ」
教授が映し出したのは、ベルーガで調査中の無人探査機からの画像だった。
そこには広い海が映っているばかりに見える。
「ただの海にしか見えませんが…?」
セイジは何も映ってない事が当たり前のように言った。
「この後の映像が重要なんだ!」
教授は何かに急かされるように画面を指差した。
画面の中の時間は全員が休息を取ってから3時間後のようだ。
突然、映像が途切れた。
「故障ですか?」
セイジは呆れ顔だ。
しかし画像は途切れても探査機は作動しているらしく
気温や水質の情報は送信され続けているらしい。
「地球から最初に送られた探査機の故障と似ていますね」
「そうなんだよ!実はね…」
教授は画像が途切れる直前まで戻し、そこで一時停止をした。
「ここに映っているもの…みんな見えるかい?」
教授が指差した場所には、かなり遠くに霞んではいるものの
黒く細いものが空の途中まで伸びているのがみてとれる。
「なにか…まっすぐな黒いものが見えるわね?」
「映像の乱れ…なわけないよな?」
「なんだろう?これは?」
全員が画面に釘付けになり、それがなんであるのか悩んでいる。
「この後探査機はどうなったんだ?」
全員の思考を一瞬止めるように隊長は教授に質問した。
「探査機は映っている塔に向かって進んだようです。
データはこの後30分程度送られてきていましたが、現在は音信不通です」
教授はあえて"塔"という言葉を使った。
「塔?!」
なるほど画像を見る限り"塔"という表現は的確なように思えた。
だが、"塔"は人工物だという固定概念からだれもが"塔"とは考えていなかった。
「それからもう一つ…」
教授はぼんやり映っている塔の上部の映像を拡大してみせた。
「ほら、ここに何かいるんですよ」
あれほど地球外生物の存在を欲していたはずの男が、喜びもせずそれを指し示した。
「"いる"って…これは雲かなにかじゃないの?」
「生物じゃないだろ?」
「目標までの距離がありすぎて、この画像じゃ議論すらできませんよ」
やはり教授以外は冷ややかなリアクションだった。
だが、隊長は…
「これが雲か何かはわからん。だが何かが映っているのは事実だ。
ベイル、このポイントに違う無人探査機を向かわせてみてくれ。
教授、今度はリアルタイムでの情報収集だ。できるかぎりのデータを
集めて分析してくれ。」
一瞬鬼の首を取ったかのような顔をみせた教授だが
「了解」
と指先まで凛と伸びた敬礼をして作業に取り掛かった。
ベイルは、現在調査作業をしている無人探査機の内、
例のポイントに最も近い探査機を割り出し、調査する座標を新しく入力している。
「時間はどれくらいかかりそうか?」
「1時間程で到着予定です」
|