[ホロロゲイオン] 
作:Pink/画:御気楽/デザイン協力:たいぎ




コールドスリープ中に夢を見る。

これは実際には臨死体験者達が"見た"という映像に近いものだった。

仮死状態に入るという事で、死に際に見る走馬灯のようなものや

自分の望んでいた事などが見られるという事のようだ。

ただこれには個人差があり、それぞれがどのような映像を見るのかは

誰にも予想などできるものではなかった。

     


"カチャ"

動く者などいないはずの船内にコールドスリープのカプセルの開く音が響いた。

一人の隊員がカプセルの中からゆっくりと起き上がり、個人用の船室のほうへ向かっていった。

船室から小さな機械を取り出しカプセルの傍に戻ってくる。

だが自分のカプセルのもとではなく、隊長のカプセルの傍らに歩み寄っていく…

「命令ですから…許してくださいね」

隊長のカプセルに機械を取り付け始めた。

どうやら"夢を映像化する装置"らしいが、機械の中に入っているのは

空のディスクではなく"機密・国防総省"と書かれている。

カプセルの下に巧妙にその機械が繋がれている事を隠し

"再生"と記されたボタンを押す。

「いい夢を…」

口元には笑みが浮かんでいた。


夢を映像化できるという事は、脳細胞の微弱な信号さえも読み取るという事だ。

逆にその装置で映像を再生すれば、思い通りの夢を見る事ができる。

コールドスリープという状況の中で夢を見るのは身体機能が低下する

直前までのたった数分にしかすぎなかった。

だが、何かしらの意図を持って人に暗示をかける、もしくは一種の催眠術をかけるには

この上のない状況であった。


「トム・フォールデン。君の任務はどんな事があろうと惑星ベルーガにたどり着き

 大気及び水質を調査し、人類に適した環境を作る事だ。

 どのような状況においても任務は遂行する事。

 もし想定できないような状況に陥っても、隊員達の命を危険にさらすような事があっても、

 必ずミッションは遂行するのだ。」



それぞれの隊員がそれぞれの夢を見る中で

隊長の意識の中に少しづつ…少しづつ…

しかし確実にその言葉はすり込まれていった。



つづく


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