先ほどまで視界の中にあった母なる地球はすでに他の星々と区別ができないほど
小さくなっている。
窓の外の風景は移動しているのか停止しているのかさえ解らない。
ただひたすらに暗闇で、遠すぎて動かないように見える恒星が単調な景色を映し出していた。
「地球からの距離は?」
「太陽と地球の距離の5倍ってとこですかね」
「そうか…」
船は自らの機体に貯めたエネルギーを循環させる事によってほぼ永続的な動力源を得ていた。
太陽と地球の距離を1つの単位として考えるという事は
太陽系外にまで手を伸ばした人類にとって不可欠な単位となっていった。
船は恐ろしく速いスピードで太陽系から離れていく。

ベルーガに進路をとってから、すでに数日が経過していた。
本来の予定ならすでにコールドスリープに入っているはずだったが
地球から離脱する際のダメージによって予定の遅れを余儀なくされていた。
この数日間、全員がルーティンの作業に加え船の応急修理などを交代制で行っている。
すべての隊員が任務に就く前に幾度か宇宙での訓練が義務付けられているとはいえ
慣れない無重力での作業に全員がいささか疲労しているのは隊長も気づいていた。
「次の交代の時にコックピットに集合するよう伝えておいてくれ」
隊長はカーラにそう伝えるとベイルと共に船外の修理へと向かっていった。
「船の応急処置はほぼ完了した。疲れている中よくやってくれた。
これよりコールドスリープにはいる。次に皆が顔を合わせるのは
ベルーガに近づいてからだな。」
コールドスリープとは一種の冷凍睡眠の事。
長い時間をかけた航路である為、身体を仮死状態にし
人間だけ時間の流れを遅らせようというもの。
透明なカバーで覆われた一人用のカプセルの中でそれぞれが仮死状態に入る。
脳も仮死状態になるがアストロノーツの間では夢を見るという噂があった。
「隊長、コールドスリープの経験は?」
いささか不安といった表情のサムライ・セイジがカプセルに半分身体が入った状態で聞いた。
「私も初めてだよ」
落ち着いた笑顔が返ってくる。
「夢を映像化してディスクに残す装置を繋げようか?」
ベイルが悪戯っ子のように笑いながら、そそくさと自分のカプセルに
その"夢を映像化する装置を"繋げている。
「いい女に囲まれてプールの傍で楽しんでる様子をディスクに残しておこうとおもってさ」
ニタニタと笑うベイルにカーラが冷ややかな視線を送る。
「アンタは闘牛の牛に襲われる夢でも見てなよ」
静まり返った船内に何台かのコンピューターの画面だけが浮かび上がっている。
5台のカプセルの中にはほとんど身体機能の停止した隊員がいる。
進路は未開の惑星ベルーガ。
まだ誰も降り立った事のない惑星である。
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