「トム!私だ。」
「国防総長閣下!」
隊長にとって国防総長とは軍属であった時の元直属の上官だったのだ。
現在は国防総長にまで成り上がっているが、当時は単なる指揮官だった。
それだけに幾度も顔を合わせていたが、判断能力などの面での嫌悪感もあった。
また政治力や金銭面での駆け引きで国防総長にまでなった事にも嫌気がさしていた。
…だが元軍人の悲しい性なのか身体は自然に敬礼していた。
「トム!わかっているとは思うが今回のプロジェクトは…」
「承知しています」
その先は聞かずとも知れているといった調子で遮った。
「ならば話は早いな。トム!行ってくれるな?」
やはりそうきたか…内心そう思いながらも今なら隊員達の生死を武器に帰還を進言できるとも
考えていた。
「船の状況はご存知ですね?」
「先ほど技術者達から聞いたよ。トム。」
「では…修理の為の帰還を許可いただけないでしょうか?」
そこまで話した時、教授の声が割り込んだ。
「隊長。計算出ました。このまま航行は可能。ただし予定に若干の遅れが出る模様。
また再突入時の船体及び乗員に対する被害の確立3%です。再離脱は50%の確立で可能です」
タイミングの悪さと報告の内容に教授を睨まずにはいられなかったのだろう。
教授は隊長の視線から逃げるようにコンピューターに向かい操作を始めた。
「トム。その状況なら続行可能なようだな?」
「いや…しかし!」
「トム…君とは長い付き合いだが…私の顔も立ててはくれないか?」
「少し考える猶予をいただきたいのですが」
「よろしいトム!よく考えたまえ。だがあまり時間はやれんよ」
言い終わると同時に地上と通信は途切れた。
「全員聞いてくれ。状況は聞いての通りだ。
私は隊長として全員の意見を聞きたい。任務続行に反対な者は?」
黙って手を挙げたのはベイルひとりだった。
「他の者は続行に賛成というのか?」
全員何も口にはしなかったが決意に満ちた目をした者、続行するのが当然といった面持ちの者
半ば諦めかけた表情の者。それぞれが手を挙げていた。
「カーラ!地上に伝えてくれ。コロンビア号は進路をベルーガに向け修正。
オートコントロール航行に入ると…
また全員がコールドスリープに入る為以後の通信はできない…と」
自分のシートに身体を固定し、小窓の外をもう一度見る。
(これで最後かもしれないな…。それもいい…か)
船は未開の惑星へと進路をとった。
− つづく −
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