[ホロロゲイオン] 
作:Pink/画:御気楽/デザイン協力:たいぎ




「隊長!帰還する事を進言します!」

青ざめた顔でその言葉を口にしたのはベイルだった。

カーラは地上との交信で精一杯という様子だ。

セイジは機体の状況をより詳しく理解すべく数台のコンピューター相手にブツブツ言っている。


「いいじゃないか。このまま行けば…後から本隊が来るわけだし…その間にもいろいろと

 研究は進むはずだよ。新しい惑星に行けるんだよ。どれだけこの時を待っていたか…」

自分の研究にとって…いや、自分の好奇心にとってこのチャンスを逃すまいと

スコット教授はいささか取り乱している。


「カーラ。地上はなんと言っている?」

「現在、被害状況を確認中だそうです。今後の行動についてはまだ何も…」

「ちっ お偉いさんはいつもこうだ…」

隊長は軍隊経験の中で上官の判断についていつもイライラさせられてきていた。

「今後一時間以内に判断を下すように言っておいてくれ」


「スコット、セイジ!二人の意見を聞かせてくれ。

 この船が現在のベルーガの大気状態で大気圏に突入する際の被害予想と確立をはじいてくれ。

 また大気変換後のベルーガからの大気圏離脱は可能か?」

セイジは隊長の肩を叩きながら呟いた

「教授はまともに判断できないと思いますよ」

「なんだと?私はいつも冷静だよ」

なるほど教授は冷静を装って穏やかな口調ではあるが、現在の状況とセイジの言葉で

いささか興奮しているようだ。

二人は一度目を合わせただけで自分の座席で計算を始めた。


(さて、どうしたものか?二人の計算とほぼ同じ結果が地上でも出るであろう。

 しかし地上の判断はおそらくは決行だと予想できる。デスクの前にいる連中など

 所詮現場の事など解っちゃいない。現場の責任者としてこのまま地球に戻っても

 越権行為ではない…しかし…)

隊長は小さな窓から見える地球を見つめていた。

かつての宇宙飛行士達は、この宇宙から見える地球の美しさに涙したという。

しかし今はどうだ?大気汚染により温暖化が進んだ地球は緑を失いつつあり

茶色の部分が明らかに多い、また海水面の上昇により海の面積は次第に大きくなりつつある。

                 

(この星に…いや、この星に住む人達にはたして価値はあるのか?)

現在の状況とはとてもかけ離れているような質問が頭をかすめていった。


「隊長!来ました!ワシントンからです」

「ワシントン?!」

隊長は解ってはいた。

アメリカという大国が、この船の名前…そして13番目の先遣隊である事に

過剰に反応している事を。そしてその事が何より失敗の許されないプロジェクトに

なってしまっている事も。



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