「とりあえず到着したら水質調査するのね?」
彼女はカーラ・マグリティス。先遣隊唯一の女性で年齢は三十代前半。
筋肉質の身体が気性の荒さを表しているが、それ以上にB.K.K(Big Kill Kara)のニックネームが
どれだけの男性隊員を倒してきたかうかがい知れる。機体操縦と通信の担当。
「水質もだが、まず生命体が存在しているかだよ」
細身で眼鏡をかけているこの男はスコット・スピークス。生真面目な性格でなによりの興味は
"地球外生命体の存在"である。通称"Doc"地球の大学教授である事からこうよばれていた。
各種調査と設備設営担当。
「なぁにいってんだか…今まで地球外生命体なんてどこの星からも報告されてないじゃん!」
せかせかと動き回りながら出発準備をしているこの男はペイル・フェルナンデス。
南米系の陽気な男だが惑星探査においては経験も多く大気変換や水質変換の作業は
彼が責任者である。また機体整備も兼ねる。
「みなさんは楽天的ですね。この船…不安はありませんか?」
こちらは確実に作業をこなし確認に余念のないセイジ・モリモト。
東洋人らしい顔つきで普段は温厚だが、ケンドウの経験のある事と眼光の鋭さから
"サムライ"と呼ばれている。コンピューター管理とエレクトロニクス設備の担当。
「各自装備の点検おわったか?!」
隊長のトム・フォールデン。元軍人。現在も同じ人間同士での戦争をやめない人類に
嫌気がさし宇宙移民先遣隊の任務に志願。
どちらかといえば寡黙だが頼りになる隊長というおもむきである。
全長200mほどの先遣隊のスペースシップは"コロンビア号"。
21世紀の初頭、アメリカが事故を起こしたスペースシャトルと同名の船である。
セイジの不安はこの船名から来るものなのかは解らないが
周囲の反発を押し切りあの"不名誉"を払拭すべくこの名前が与えられたのは
まだアメリカという国が宇宙開発においてリーダーシップをとっているという事の象徴であった。
スキージャンプ式の発射台には轟音を上げ発進を待つ機体の姿がある。
「さあっ!世界のみなさん!13番目の先遣隊のスペースシップ発進の瞬間です!」
発射台の周りではテレビ中継のリポーターがまるで何か起こる事を期待しているかのように
マイクを片手にカメラに向かって必死に話しかけている。
「コントロール。発進手続きに入ります。」
カーラがコントロールタワーと交信している。
「了解です。そちらの準備が整い次第カウントダウンに入ります」
タワーではたくさんのスタッフがコンピューター画面をにらめつけながら準備をしている。
「隊長、無事に宇宙にでられますかね?」
ベイルが自分の恐怖を抑えるように茶化して言った。
先ほど心配していたセイジはコンピューターの画面を見つめながら
忙しく発進準備をしている。
「この時代に発進で事故が起こるわけないだろ…」
隊長はつぶやきながらそれでも額の汗が不安を感じさせていた。
「カウントダウン開始します! 10! 9!…」
機内では全員が緊張し点火したエンジンの振動をこらえていた。
「8! 7! 6! 5!…」
地上スタッフ達も緊張の一瞬を迎えようとしていた。
「4! 3! 2! 1! 0!」
メインエンジンに火が入り数百マイル先にまで響く轟音をたてて発射台の上を
すさまじいスピードで加速していく。ジェットコースターを上っていくように
機体は徐々に角度がつき、垂直になった所でメインエンジンはさらに出力を高め
大量の白煙を残しながら空の彼方へと上昇していった。
「大気圏を離脱します!」
振動と緊張で震えているカーラの声が全員のヘルメットの中に響きわたる。
「なんだ?この数値?」
セイジは慌ててコンピューターと格闘している。
「!!!」
全員に聞こえる鈍くひしめく音とその直後に"カン"という音。
「何が起こった?」
隊長の声にセイジが自分の目の前のコンピューターで確認作業に入る。
「隊長!!大気圏再突入用のパネルが数枚剥離したようです。それと…」
「それと?」
「メインエンジンにダメージ!」
「大気圏に突入可能か調べろ!」
「ヤー!」
重力から解き放たれ全員の身体がスーツの中で浮かび上がる。
「隊長!計算の結果再突入は可能。ただし…一度が限界です…」
「って事は…ベルーガの調査に向かえば地球には帰れない。地球に帰るとベルーガの調査はできない?」
− つづく −
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