雲草 「そう言えば この辺りは夜になると何やら妖(あやし)の者が現れて悪行を働くと聞き及んでおりますが、
それは真(まこと)でありましょうか?」
平蔵 「これは否(いな)事を。 そのような根も葉もない噂が立っておりますか?」
雲草 「やはりただの噂でしたか。 安堵(あんど)いたしました。
私、こう見えても臆病者にて魔避けの品を片時も放さず携えて旅をしているのです。」
平蔵 「 魔避けの品 ですか?」
雲草 「はい。 先ほど一服していた煙草にございます。
その煙草の煙は徘徊(はいかい)する百鬼夜行も避けて通り、
跋扈(ばっこ)する魑魅魍魎(ちみもうりょう)をも滅する と言う世にも珍しき代物です。」
平蔵、ミツ 「!」
雲草 「はははは。 そのように驚かれるな。 ただの戯言(ざれごと)でございます。
こんな浪人がそのような都合の良い品を持ち合わせている訳はありません。
もしも妖(あやし)の者が目の前に現れたなら、一目散に逃げます。」
平蔵、ミツ 「・・・。」
|