雲草 「それは願ってもない。 私は雲草(もぐさ)と申す根無し草の浪人でございます。」
平蔵 「おひとりですかな?」
雲草 「はい。 ひとり各地をふらりふらりしている内に流れて参りました。
この地に辿り着きましたのは夕刻でしたので、この破れ寺にて一夜を過ごそうかと。」
懐に煙草を収める。
雲草 「お二方は灯(あかり)も照らさず夜の山道を行かれるとは、よほど慣れているとお見受けしましたが。」
平蔵 「!」
腰を下ろそうとしていたが一瞬動きを止める。
平蔵 「私共は時折ここへ月見に来るので夜道も慣れております。」
腰を下ろす平蔵。
平蔵 「それに こう
お月様が明るくては灯(あかり)などいりますまい。」
平蔵 「ミツや、まずは雲草殿に注いであげなさい。」
ミツ 「どうぞ。」
雲草 「これは これは ありがたい。」
平蔵 「さ、飲んで下され。」
雲草 「では、お言葉に甘えて。」
平蔵 「雲草殿はしばらくこの地に留まられるのかな?」
雲草 「いいえ。 通りすがりにございます。 この地には一夜限りの宿泊でございます。
さりとて寝るにはまだ刻(とき)もはやく、一服しながら月見でも楽しもうかと思いまして。」
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